自転車2次遠征
地域:奈良県、和歌山県
日程:12月26日(土)
メンバー:(2) 松浦 小島(PL) 松尾 (1) 西山(衛生) 浅岡(SL) 新井 後藤(記録) 本田
計8人
分け入っても分け入っても青い山
種田山頭火
12月26日土曜日、私は爽やかな朝日を浴びながら、乗客のまばらな電車に揺られていた。この電車は自転車2次遠征のスタート地点、橿原神宮前駅へ向かう電車である。乗客は皆、朝日と同じく爽やかな笑顔をその顔に称えていた。私もこの時は同じような表情であったはずである。この先に待ち受ける苦難を知らなかった私は…。
今回の合宿では高野山を越えることになっていた。最大標高は922mである。かなり登らないといけないと覚悟はしていた。しかし実際は思った以上にきつかった。何と言っても、坂が長い。長すぎるのである。かなり長い時間登り続け、そろそろ頂上かと思った時だった。頂上まであと10kmだと知ったのは。心が折れる音がした。このご時世、電車も通っているのになぜ私たちは死に物狂いで自転車を漕いでいるのだろうか。阿保である。私はUターンして麓から電車に乗ろうと心に決めた。しかし、後ろには先輩がいる。先輩が最後尾を走るのは新入生の逃亡を防ぐためであったのだ。昔、偉い人が言ったらしい。「なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ。」と。山があるのは知っている。だがなぜ登るのかと聞いているのだ。そこからはもう無心で登り続けた。道の先にある曲がり角を曲がったら頂上だろうという希望はもう抱かなくなっていた。頂上に着いたときには、憔悴していた。逃げる気力も無くなっていた。だが、ここからは下るだけである。解放されたようなすがすがしい気持ちで夢中で風を切った。しかし、ここで苦難は終わりではなかったのである。日が暮れてきてもまだ山から出られないのだ。おまけに山の中には駅もコンビニもトイレも喫茶店も何もない。自転車班の皆に焦りが現れだした。そんな私たちの焦りをよそに、日は一気に落ちてしまった。星が綺麗に瞬く空の下、ひたすら足を動かすことに集中し、必死でついていった。走っても、走っても街が見えない。それどころか、どれだけ走っても目の前には黒い山々がそびえたっている。街が現れる気配もない。まさに、「分け入っても分け入っても青い山」である。こんなところで種田山頭火の句を実感するとは。しかし、青い山ではなく黒い山である。
街が現れたときの感動は言いようもない。最初の信号機を見つけたときには、涙が溢れ出してきたほどである。そこから私の記憶は途絶えている。気が付けばまた電車に揺られていた。外は漆黒の闇である。爽やかな笑顔の乗客はもういない。総走行時間約12時間。総走行距離129.5km。獲得標高2537m。これが今日一日の記録である。この数字にどんな意味があるというのか。私がワンダーフォーゲル部に入ったのはバラ色のキャンパスライフを送るためではなかったか。この数字がそこに通じているとは到底思えない。責任者は誰か。たぶん私であろう。自分の意志で入部を決めたのだから。
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