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前鬼谷沢登りPW

山域:大峰系(奈良県) 

沢:北山川水系 前鬼川本谷(孔雀股谷)                  

日程:2021/9/3(金)〜9/5(日)  日帰り(移動日1日/予備日1日) 

メンバー:OB:上田 PL野間

2回生:SL 西山[衛生][記録]

計 3人 

予定通り3日の22:00にJR尼崎駅に集合し1:00頃に前鬼口に到着した。黒谷吊橋ゲートまで進もうとしたが暗くて道がよく見えなかったため前鬼口でテントを張り就寝することになった。前日の夜中から朝方にかけて雨が降っていたが、起床した6:00には止んでいた。テントを片付け黒谷吊橋ゲートまでカーブの多い山道を車で進んでいった。団装分けを行い、体調が万全であることを各自確認していよいよ入渓した。

 夜に雨が降っていたせいか水温は低くウェットスーツを着用していても冷たいと感じられるほどであった。上田コーチはウェットスーツを着用していなかったため川に入った瞬間思わず「寒い」とつぶやいていた。しかし、腕の力だけでなく体全体をくねらせて登攀しないと登れないような大きな岩がゴロゴロとありすぐに寒さは消えていった。川の水は透明でありながら底の方を見ると美しい水色に輝いていた。野間コーチから「川の楽しさは自分の好きな道を選択し歩を進め、景色を含めた川全体を堪能すること」というような川の楽しみ方を教えていただいた。コーチ二人に現役生一人というメンバーで緊張していたが、これをきっかけにコーチが進む方向に必死でついていくというよりは川を体中で楽しむという行動が次第にできるようになっていった。そうこうしているうちについに前鬼谷出会に着きついに本流に出ることができた。

 水色や青色、エメラルドグリーンなど様々に美しく見える前鬼ブルーを堪能していると滝が見えてきた。滝の勢いは凄まじく白く泡立っていた。まるで純白の龍が澄んだ空に向かって飛び込んでいるようであった。野間コーチが水中ゴーグルを持参していたことから水中の様子を観察することができた。体に黒い斑点があるヤマメのような魚が二匹釜の底の方で泳いでいるのが見えた。





釜は水中で見ると水面から見るより深く危険であることがわかった。事前に釜について(以下のサイトを使ってhttp://yamanakama-sirius.org/oyakudachi/gijutsutext/sawa_nyuumon.pdf )調べていたが、「大きな釜は底流が複雑で、引き込まれると危険である。また、釜の落ち口付近の流れも複雑で、これに引き込まれて滝から流されると重大事故にも繋がるので、深い釜では泳がない方がよい。」との記載があった。釜を実際に見てみることでその危険性を目の当たりにすることができた。2020年に2段10m滝で落下した52歳の女性が外傷性ショックで死亡した事件があったことと今回増水していたことを踏まえ、左岸から高巻きして進んだ。また高巻きのルートにはロープがついてあった。高巻きが終わったところで野間コーチがヒルに噛まれヒル除けを使い駆除した。続いて左岸から右岸に渡るときは滝に引き込まれないようロープを張って伝いながら進んだ。

 天候にはあまり恵まれない一日になるだろうと予想されていたが雲の間から光が差し、川をさらに美しく照らし始めた。褐色のナメ床が一面に広がっており水色の川とのコントラストが楽しめた。やはり普通の岩より非常に滑りやすくなっていて自然の滑り台を何度も味わった。





 推定行動時間よりも時間がオーバーしていたため概念図にあった登山道から小仲坊へ向かう予定で進んでいた。三重滝は名前の通り3つの滝が連続してあり荘厳な雰囲気が漂っていた。

 しかしながら、登山道の標識に気づかず深仙又谷まで進んでいた。登山道の手がかりとして遡行図に垢離取場があるとの記載があった。そもそも垢離とは仏教用語で「身についた罪・穢れのことで、修験者が身を清める場所」(http://japan-heritage-yoshino.jp/tradition/%E5%9E%A2%E9%9B%A2%E5%8F%96%E5%A0%B4/ )という意味があるらしい。確かに、僧侶が修行する場所ということが書かれてある小さな札が左岸にあり、その札の少し手前にはちょうど良い具合に体全身が浸かれそうな釜を確認していた。垢離取場がどのような場所であるのか詳しく把握しておけば登山道を見逃すことはなかったように思う。また垢離取場の目印として左岸の上部に鉄の梯子があり、右岸には登山道のテープが貼ってあることが後からわかった。




深仙又谷までの道のりは2段10m滝までの道と比べて険しかった。ホールドする部分がない大きな岩にしがみついて登攀することが増えていった。コーチ陣に比べて登攀能力が低いため時間を多く使ってしまった。岩があまりにも大きいため右岸から高巻きした部分があった。コケが多く傾斜も急であったことからビレイを取って登攀した。上田コーチが先に登攀し支点を作って野間コーチにロープを出してもらうという形で登った。先に登った人は近くの木の幹や頑丈な岩でセルフビレイを取ることが重要であるということを学んだ。大木が倒れている場所があった。川底が深そうな場所で濃いエメラルドグリーン色をしていた。潜ってみてみると2段10mの釜より深かった。大木の先には小さな滝のようなものがあり上田コーチは登攀することができたが、ほぼ崖のような場所で危険だったため野間コーチと私は高巻きした。高巻きルートもかなり勾配がきつく整備されていない登山ルートであった。

 三重滝から時間が経っているのにも関わらず登山道に合流しないことから道を見逃したことに気づいていた。深仙又谷出会に漸く辿り着くことができたためそこで登山ルートから引き返すことにした。沢から左岸の山道へ上がるときもナメ床で勾配が急だったためビレイを取った。登山道というよりは土の崖を登っていくという感じであった。地面がぬかるんで足が滑ることに加えて石を掴もうとするも動いたり、木の幹を掴もうとすると腐っていてつぶれたりとかなり危険な山道で慎重に登った。蜘蛛やザトウムシが多く生息していた。下り道も坂があまりにも急で木の幹から下にある幹へ飛び移る感覚で歩いていた。木で少し薄暗くトトロの森(今回はハードモード)を歩いているようであった。正規の登山ルートに出ると非常に歩きやすく感じた。今回は深仙又出会から左岸の旧道を使って戻った。道の途中にあるテープを辿っていくと途中から不明瞭になっていたが、高度を落としていくと登山道に合流することができた。沢に出て初めて登山道への道がどこから続いていたのかを把握した。

 険しい登山道から垢離取場に戻ることができて安堵したのも束の間であった。小仲坊へ向かう正規ルートも整備されて歩きやすいもののアキレス腱が常に伸ばされていていつ切れてもおかしくないのではないかと心配になるくらい勾配が急な道であった。恐らくこれまでの登攀で疲労がピークに達していた。休憩を取りながら登っていると次は上田コーチがヒルに襲われた。下りに入ると筋肉疲労も落ち着きコーチ陣と部員や組織としての書類作業の取り組み方について話し合った。やはり死と隣合わせであるワンダーフォーゲル部という組織に所属している限りは事前準備を怠らずリスクを最小限に抑えた状態で部活動に臨みたいと感じた。メメント・モリである。

 登山道が終わると宿泊施設が見えコンクリート道へ出ることができた。そのまま道なりに進んでいくと車を停めていた黒谷吊橋ゲートに無事に到着した。


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